今回は、手続きは面倒だと敬遠されがちな限定承認について紹介します。
限定承認は、一言で言えば、家族が借金をのこして亡くなった時、借金を背負わずに済ませられ、亡くなった家族の財産で借金を返してプラスの財産が残ったら、それをもらえるという相続人にとって都合のいい制度です。
概要
相続が開始した場合,相続人は次の三つのうちのいずれかを選択できます。
単純承認
単純承認は、相続人が被相続人(亡くなった家族や親戚)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぎます。
相続放棄
相続放棄は、相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継ぎません。
限定承認
限定承認をすると、被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぎます。
相続放棄と、限定承認は、主に、亡くなった方の借金を背負わずに済ませるために利用されます。
相続人が、相続放棄又は限定承認をするには、家庭裁判所にその旨の申述しなければなりません。
以下、限定承認について紹介します。
申述人
相続人全員が共同して行う必要があります。
申述期間
家庭裁判所への申述は,自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければなりません。
申述先
申述に必要な費用
収入印紙800円分
連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所ごとに決められています。申述先である、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に確認してください)
必要書類(申立書の書式及び記載例)
・申述書
・戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本(以下、戸籍謄本等)
・添付書類(戸籍謄本等以外)
※ 申述書と一部の添付書類のひな形は,、裁判所のホームページからひな形がダウンロードできます。
- 家事審判申立書(PDF113KB) (限定承認の申述の為にも使えます)
※ 同じ書類は1通で足ります。
※ 同一の被相続人について、相続の承認・放棄の期間を伸長する申し立てをしている場合、相続放棄の申し立てている場合、既に提出済みのものは提出不要です。
※ 戸籍の収集が間に合わなかった場合、申述後に追加提出することができる場合があります。
※ 書類の追加を求められることがあります。
必要になる戸籍謄本等
被相続人に(配偶者と)第1順位の相続人がいる場合
①生きている子どもがいる場合
②配偶者と、生きている子どもがいる場合
③死んだ子どもの子ども(被相続人とっては孫)がいる場合
④配偶者と、死んだ子どもの子ども(被相続人とっては孫)がいる場合(代襲相続)
被相続人に(配偶者と)第2順位の相続人がいる場合
⑤子どもがいないが、親や祖父母(直系尊属)がいる場合
⑥子どもがいないが、配偶者と、親や祖父母(直系)がいる場合
被相続人に(配偶者と)第3順位の相続人がいる場合
⑦子どもと存命の直系尊属がいないが、兄弟姉妹(死んだ兄弟姉妹の子、つまり甥、姪も含む)がいる場合
⑧子どもと存命の直系尊属がいないが、配偶者と兄弟姉妹(死んだ兄弟姉妹の子、つまり甥、姪も含む)がいる場合
被相続人に配偶者だけいる場合
⑨配偶者だけの場合
上記①~④のケースで必要になる戸籍謄本等
1.被相続人の生まれてから死ぬときまでのすべての戸籍謄本等
(戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本)
2.被相続人の住民票除票又は戸籍附票
3.申述人全員の戸籍謄本
4.被相続人が死んだ時に、被相続人の子で死亡していた場合,その子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
上記⑤、⑥のケースで必要になる戸籍謄本等
1.被相続人の生まれてから死ぬときまでのすべての戸籍謄本等
(戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本)
2.被相続人の住民票除票又は戸籍附票
3.申述人全員の戸籍謄本等
4.被相続人が死んだ時に、被相続人の子で死亡していた場合,その子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
5.被相続人の直系尊属に死亡している方がいる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本等
上記⑦~⑨のケースで必要になる戸籍謄本等
1.相続人の生まれてから死ぬときまでのすべての戸籍謄本等
(戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本)
2.被相続人の住民票除票又は戸籍附票
3.申述人全員の戸籍謄本等
4.被相続人が死んだ時に、被相続人の子で死亡していた場合,その子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
5.被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
7.被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
8.代襲者としてのおいめいで死亡している方がいる場合,そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍謄本等
相続放棄・限定承認の熟慮期間伸長の申し立て
限定承認は、相続人が、自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
しかし、3か月以内に、相続財産の状況を調査しても、相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合があります。
そういう場合、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てにより、家庭裁判所はその期間を伸ばすことができます。
限定承認をする際の注意事項
限定承認の申述は、共同相続人全員でする
相続放棄は一部の人だけでできますが、限定承認は一部の人だけで行うことはできず、必ず相続人全員でする必要があります。
なお,相続放棄をした人は,相続人ではなかったものとみなされるので,それ以外の共同相続人全員で申述することになります。
限定承認が受理された後、清算手続をする
限定承認した相続人は、相続財産の清算手続きをします。
相続財産を売り(換価)、債権者に弁済します。
相続財産管理人を選任して、相続財産の清算手続きを任せることができます。
被相続人の債権者に限定承認をしたこと知らせて債権の請求をするよう促すため、官報公告をする必要があります。
官報公告は、相続財産管理人が選任された場合、選任から10日以内に、相続財産管理人を選任せず相続人が清算手続きをする場合は、申述が受理されてから5日以内にします。
補足: 清算手続の末、被相続人の財産から借金を返し切れなくても、相続人は借金を背負う必要はありません。
借金を返し切って、残りがあれば、遺言に従って財産を分けたり、相続人の間で遺産分割協議をして財産を分けることになります。