仕事柄、任意整理の受任をすることがあります。
今回は、実務家視点から任意整理を始める際の助言を書きました。
- 任意整理って何?
- 任意整理でどのくらい借金が減るの?
- 任意整理の手数料が高くなるケース
- 支払代行は不要
- 目安の報酬規準
- 任意整理を専門家をはさまずに自分でできるか
- 借り換え
- 特定調停
- 任意整理をする際の注意点
- 【重要】交渉材料として、勤務先を伝えることがある(2022.6.28加筆)
- 任意整理をするための事務所選びのポイントまとめ
任意整理って何?
任意整理とは、債権者に借金の利息をカットして残りを分割払いにしてもらうことです。
利息がカットできて、さらに残りが分割払いになるので、月に支払額が下がることがあるし、完済までの支払総額も下がることがあります。そこはケースバイケースです。
借金をチャラにできる破産、借金の元金を減らして残りを分割払いにする個人再生とならんで、債務整理の一種です。
最近は、任意整理を含めた債務整理について、「国が認めた借金救済制度」や「国が認めた借金救済措置」などの表現で広告が出されることが増えて来ました。
任意整理でどのくらい借金が減るの?
どのくらい下がるかというと、手続き開始から債権者と和解が成立するまでにかかる経過利息として、元金に1.05をかけて、現在の利息をたし、さらに任意整理の手数料として(55,000×債権者数)を足すと、残りの支払い総額になります。
計算式はこんな具合です。
元金×1.05 + 現在利息 + (55,000×債権者数)=目安の支払い総額
それに、36~60カ月が目安の返済期間ですので、間をとって48で割ると、月の支払い額となります。
目安の支払総額 ÷ 48 =目安の月の支払額
任意整理の手数料が高くなるケース
心情的に、借金で苦しんでいる人相手に手数料を取りにくいところがあるのですが、広告をバンバン出して、がっつり手数料とる事務所が増えています。
通常、サービスは高い方が質がよく、サービスを受けた人の満足度も高いですが、任意整理はその逆になります。
例えば、個人のお客さん相手に実際やることは、
1.相談者から話聞く
2.債務整理の説明をする(過払請求、任意整理、個人再生、自己破産)
3.方針を決める
4.受任する
5.手続きをする
6.結果報告する
任意整理は、手数料が安い場合だと、最初に手数料を一括で払うか分割で払うかして、払い終ってから債権者と和解交渉に入ります(上記「5.手続きする」 の段階)。
こういうケースでは、手続きがかなりシンプルで、事務所の作業量も比較的少ないです。
ところが、手数料が高いと、お客様は一括で支払えませんし、分割で払いきるまで時間がかかって、その間、借金に利息がついてしまいます。
手数料が高い事務所では、そのデメリットを穴埋めするために、支払代行という手続きをします。
支払代行は、事務所に金を預けて、代わりに債権者に払ってもらう仕組みです。たいてい、1社あたり1回1,000円くらいかかります。
支払代行をつけると、事務所の作業量が増えます。
お客さんにとっても負担です。1社あたり1回1,000円だと、48回払いでの完済の事案では、48,000円かかってしまうことになります。支払い回数や、債権者が多いと、その分負担が増えます。
手数料が安いとシンプルなのに、手数料が高いと複雑でさらに高額になってしまうのです。
支払代行は不要
支払代行により、弁護士事務所や司法書士事務所を通して、債権者に借金を払ってもらう必要性は少ないです。
利息カットのうえ分割払いする交渉をまとめてもらったら、
ご自身で、振込手数料が安い銀行に口座を作り、
自動振込の設定をし(窓口に行って設定することもできます)、
和解案通りに支払を続ければ、業者から連絡が来ることはありません。
支払代行を依頼すると、無駄な負担を背負うことになります。
目安の報酬規準
サービスは高い方が質が良いものですが、任意整理については逆です。
ですので、私が借金増やして、いざ、任意整理を始めるとなったら、定額の手数料が安いところを探します。目安は、手数料を一括か短期の分割払いが可能が額です。
ネットで探すと、定額手数料22,000~33,000円くらいでやってる弁護士事務所や司法書士事務所があります。私が任意整理するなら、それくらいの価格帯の事務所と相談しますね。
任意整理を専門家をはさまずに自分でできるか
債権者が応じてくれればできます。
専門家をはさまずに自分で債権者と交渉することを私的整理と言って、専門家をはさむ場合の任意整理を区別して呼ぶ場合や、専門家をはさむかはさまないか区別せずに任意整理と呼ぶ場合があります。
今回は2つを区別するために、専門家をはさまないで自分で債権者と交渉するケースを私的整理と呼ぶことにします。
私的整理をすると債権者、利息の利率18%のところ16%にしてくれたり、15%のところ14%にしてくれたりします。
時と場合によりますが、同じ業者から長年借りて返してを繰り返していたり、高齢になって年金を受給し始めたり、詐欺にあって借金をしたなどやむを得ない事情がある場合に大きく利息を下げてもらえるようです。最大利率6%まで下がります。
任意整理によって総支払額がどれくらいになるか、次の計算式を紹介しました。
元金×1.05 + 現在利息 + (55,000×債権者数)=目安の支払い総額
元金によりますが、この計算方法では6~10%の利息で元利均等弁済をするのと、同じくらいになりますので、自分でやる私的整理でも交渉次第では任意整理に近い総支払額減額が可能です。
なお、元々の契約を変更するせいか、私的整理によって利息が少ししか減らなくても信用情報に載ります。
信用情報に載るとどうなるかは後述します。
借り換え
信用情報に載らない方法として、借り換えがあります。
これは、お金を借りて借りたお金で残った借金を返す方法です。
借金を返すためにお金を借りる際、元の借金より低い利息で借りられれば、完済までの総支払額を下げることができます。
借り換えは自分でできますが、借り換えに応じてくれる業者が見つかるかはケースバイケースです。
特定調停
特定調停は、裁判所に申してて、調停委員を選任してもらい、債権者、債務者、調停委員の3者で、借金の返し方を決め直す手続きです。
調停委員が味方してくれても、破産や個人再生のように元金を減らすことは難しいです。
結局、利息カットのうえ分割払いするところで落ち着きます。
任意整理するのと効果が変わらない上に、裁判所に行く手間がかかるので、年間の特定調停の利用件数は破産の件数と比べても桁違いに少ないです。
なお、専門家をはさまずに自分でやりたいが、交渉に自信がないような場合は、特定調停を利用するのも一つの手です。
任意整理をする際の注意点
ローンが組めなくなる
任意整理は、借金で苦しいという建前で行うので、信用情報に不利な記載がされます。
銀行、消費者金融、クレジットカード会社は、審査する際、信用情報を参照しますので、任意整理していることが伝わってしまい、それが原因で審査が通らなくなってしまうことがあります。
クレジットカードが使えなくなる
クレジットカードを使うと、クレジットカード会社に立替払いしてもらえます。
クレジットカード会社は、立替払いしたお金を後で返してもらえなくなると困ります。
そのため、クレジットカードの新規入会の際に信用情報を確認しますし、入会後も定期的に信用情報を確認します。
信用情報から、任意整理を始めたいることが分かると、新規入会を断ったり、利用中のクレジットカードを利用できなくしたりします。
分割払いやローンを組んでる会社を相手方にすると商品の引き上げにあう
信販会社などを通じて、高額な商品を分割払いしている場合、その会社を相手方にして任意整理すると、商品を引き上げられしまうことがあります。
同様に、自動車のローンを組んでいるときに、ローンを組んでる相手の会社と任意整理を始めると、自動車が持っていかれます。
住宅ローンについても同様で、住宅ローンを組んでる銀行などに任意整理を始めたことを通知すると、抵当権を実行されて競売にかけられます。
信用情報に載った不利な情報は、完済から5年で消える
信用情報機関は、CIC、JICC、KSCの3つあり、それぞれ信用情報の載り方と消え方が違います。
CICに載った情報は、完済から5年で消えます。
JICCに載った情報は、
最後の借入が 2019年(平成31年)9月30日までなら、
任意整理の和解成立から5年で消え、
最後の借入が 2019年(平成31年)10月い日以降なら、
完済から5年で消えます。
全国銀行個人信用情報センター(KSC)には、任意整理によって情報が載ることはありません。
各信用情報機関については、こちらの記事にもっと詳しく書いてます。
【重要】交渉材料として、勤務先を伝えることがある(2022.6.28加筆)
重要なことなので加筆しました。
任意整理をすると借金の利息カットをしてもらえる理由
ところで、任意整理をすると、どうして利息をカットしてくれるんでしょうか。
それは、個人再生や破産をされると、業者が回収できるお金がグッと減ってしまうので、利息カットで妥協してくれるからなのです。
業者は、利息カットしても元金はしっかり返してもらえるのかとても気にします。
任意整理の交渉では、業者は手続きをする人の収入と支出を質問するなど、借金を返せそうか確認をとってきます。
できれば勤務先を伝えない方がいい理由
ここで、注意すべきことがあります。
業者は交渉の段階で、残りの借金を返せそうか確認するために……という建前で、任意整理される方の勤務先を聞いてきます。
しかし、業者が勤務先を把握していないなら、伝えない方がいいのです。
事務所を選ぶ際には、以下に述べるような勤務先を伝えるリスクについて、説明し、勤務先を伝えない選択肢を提示できるところを選ぶと良いでしょう。
というのも、業者が勤務先を知ってしまうと、
利息カットの分割払いという和解案通りに借金が返せなくなり、事務所が辞任した後、支払督促など強制執行のための準備手続きをとって、勤務先から払われる給与を差し押さえることがあるからです。
給与差押を受けると、会社に借金のことが知られてしまいますし、給与の4分の1を持っていかれることになります。
リスクを負っても、任意整理をするかという問題
もちろん、借金を和解案通りに還せていれば、給与差押まで事態が悪化しません。
また、最初から業者に勤務先を知られていた場合、借金を返すことに集中した方がよく、任意整理で借金が返しやすくなるなら、やった方がいいです。
また、業者に勤務先を知られて、将来的に給与差押を受けるリスクを負うとしても、利息カットの上、分割払いすることで借金が減るならやった方がいいことが多いです。
そもそも、借金が少ないと滞納があっても、手間のかかる手続きをとってまで、給与差押はしません。
任意整理を通して、業者が給与差押の手続きをとらない程度の額まで減らせれば大丈夫とも言えます。
業者に勤務先を伝えない選択肢
任意整理を依頼する弁護士事務所や司法書士事務所によって、方針が異なります。
業者に勤務先を伝えるリスクを説明せずに、借金について相談された方から勤務先を聞き取り、和解交渉で勤務先を伝える事務所もあれば、
相談された方から相談された際、勤務先を業者に伝えるリスクについて説明し、和解交渉の段階で、勤務先を伝えないと和解に応じてもらえない時だけ伝える事務所もあれば、
依頼者の希望で、和解で不利になっても、勤務先を教えない事務所もあります。
事務所を選ぶ際は、リスクについて説明し、和解交渉で不利になっても勤務先を教えない選択肢がある事務所が見つかれば、そこに任せた方がいいです。
任意整理をするための事務所選びのポイントまとめ
任意整理をするために弁護士事務所や司法書士事務所を選ぶ際は、
和解交渉までの定額の手続費用が安い
支払代行をしない
勤務先を債権者に伝えるか選べる
この3点を基準にして選んで下さい。