投信積立の出口戦略についての話です。
- 投信積立の出口戦略
- 投信積立と生前対策
- 判断能力が衰えるリスク
- 成年後見制度
- 成年後見制度のメリット
- 成年後見制度のデメリット
- 任意後見契約
- 家族信託
- 家族信託で投資信託運用する際の注意点
- 結局、出口戦略として何を選べばいいのか
投信積立の出口戦略
投信積立の出口戦略は、いろいろな論点があり、
例えば、株式クラスのポジションを減らして、債権クラスのポジションを減らすというアセットアロケーションに関わる論点や、
定期的に定額で換金するかなど、換金方法や換金のペースに関する論点があります。
今回は、自分が年を取って判断能力が衰えた時に、誰の手によって投資信託の運用を継続するかという論点に焦点をあてます。
投信積立と生前対策
剰余資金の運用や、老後に備えて年金代わりの資産形成のために、投資信託を定期的に積み立てるのは有効な手段です。
機会分散と長期保有のメリットを生かして、株式クラスの投資信託を買って保持すれば経済の発展に便乗して資産を増やすことが可能です。
しかし、長期保有のメリットを生かすと言っても、ずっと投資を続けられるわけではありません。
判断能力が衰える可能性がありますし、人間は誰もがいずれは死亡するものです。
将来的なリスクに対処する方法として、成年後見制度、任意後見契約、家族信託について比較検討します。
判断能力が衰えるリスク
投信積立自体は、あまり高度な証券知識や専門的な判断力がなくてもできます。
しかし、自分が年を取ると、一般的なレベルの判断能力が衰えて、証券口座にアクセスできなくなることもあり得ます。
すると、投信積立の設定のまま、積立が継続されることになります。そうすると、必要なときに投資信託を換金して使えなくなってしまいます。
成年後見制度
事前に対策をとっておかないと、家族などの利害関係人が家庭裁判所に申し立て、残っている判断能力の程度に応じて、補助人、保佐人、成年後見人が選任されます。
補助人、保佐人、成年後見人は、家庭裁判所の監督の下で、本人に代わって財産管理をし、(代理権があれば)法律行為を代理し、判断能力の低下につけこんた詐欺等の不利な契約を解除します。
こういった、家庭裁判所が、補助人、保佐人、成年後見人を選任し監督し、判断能力の衰えた人の権利擁護を図る制度を成年後見制度と言います。
成年後見制度のメリット
堅実に財産管理、権利擁護
判断能力の低下という事態に備えた対策をとってなかった場合、成年後見制度はかなり有効な手段です。
家庭裁判所は、堅実かつ慎重に補助人、保佐人、成年後見人を選任し監督します。
補助人、保佐人、成年後見人は、本人が積み立てていた投資信託を原資にして、本人の生活が成り立つように財産管理をするでしょう。
現金を有価証券に換えることはしませんが、有価証券を現金化して生活費にあてるような財産管理を本人に代わって行います。
成年後見制度のデメリット
では、「成年後見制度があるなら、自分がボケたときのことは心配しなくていいか」というと、必ずしもそうではありません。
報酬が発生する
成年後見制度を利用すると、補助人、保佐人、成年後見人に対する報酬が発生します。残存資産の額や、後見業務の難易度に応じて報酬が決められます。たいてい月2万円以上はかかります。
元々使途を決めていても使えない
子どもや孫のための教育資金や、子どもの家庭への生活資金援助など、本人が何かの目的のために資産を使うつもりでいたとしても、成年後見が開始すると、その目的で使うことはできません。
残存資産に余裕があっても、家族が使えない
残存資産が高額で、本人の老後の生活を確保してもなお余剰金が見込まれる場合でも、本人と同居する家族が住宅のリフォームのために本人のお金を使うことはできません。
堅実過ぎて、柔軟性にかける
本人の住宅を売って老人ホームに入居するための資金を確保する必要がある場合、本人が現在住んでいる住宅の売却について家庭裁判所の許可が必要になります。この場合、家庭裁判所は、必ずしも許可を出してくれるとは限りません。家庭裁判所の慎重かつ堅実な姿勢は、住宅を不当に安く売ってしまうことを予防するという観点からはメリットがありますが、柔軟性にかけ、ご家族の思うように事が進まないことがあります。
任意後見契約
成年後見制度は、補助人、保佐人、成年後見人を家庭裁判所が選任する制度ですが、任意後見契約は、本人が自分の意思で、後見人を選ぶ契約です。
任意後見の利用の仕方は3種類
将来型
将来型は、文字通り、将来、判断能力が低下したら任意後見を開始します。
移行型
移行型は、本人の判断能力が十分なときは、第三者が委任契約によって本人の財産を管理する任意財産管理を行い、判断能力が低下すれば任意後見に移行します。
即効型
速攻型は、任意後見契約を締結し、すぐに任意後見を開始します。
任意後見契約の特徴
契約する際、公正証書で契約書を作成します。
また、必ず、後見監督人がつきます。ですので、任意後見人と後見監督人の報酬が発生します(任意後見人を家族の誰かにして、報酬を払わない契約にすることはできます)。
ある程度本人の意向をくんだ財産管理が可能ですが、投資信託を新たに買うのを任せられず、本人が済んでいる住宅を売る際、後見監督人か家庭裁判所の許可が必要になります。
法律行為の同意権、解除権がないので、本人の権利擁護の面で成年後見制度と見劣りします。
任意後見(移行型)は、初めに、任意財産管理契約を結び、判断能力が衰えたら任意後見人を選任しますが、任意財産管理契約の受任者と任意後見人は同一人物が担当するケースが多いです。任意後見を始めると、必ず後見監督人がつくので、それを嫌がり本人の判断能力が衰えたにも関わらず、任意後見を始めないケースがあることが指摘されています。
家族信託
信託契約をすると、所有権の中身を管理権と受益権に分けて、受益権は元の所有者が持ったまま管理権だけ他の人に任せることができます。
家族信託の登場人物3人
信託契約では登場人物が3人登場します
委託者
委託者は、元の財産の所有者です。
受託者
受託者は、所有権の管理権と受益権のうち、管理権を与えられ、委託者に代わって財産管理をする人のことです。
受益者
受益者は、所有権の管理権と受益権のうち、受益権を与えられ、委託者に代わって財産から生じる使用収益権を受け取る人のことです。
信託契約の説明(委託者、受託者、受益者の関係を踏まえて)
信託契約をかいつまんで説明すると、委託者が持っていた財産を、受託者が管理し、受益者がそれを使ったり、株の配当金や、投資信託を換金したお金や、賃貸物件の家賃収入を受け取る契約となります。
家族信託(民事信託)
委託者と受益者が同一人物の場合を、民事信託と呼びます。
この場合、委託者兼受益者が持っていた財産を、受託者が管理し、受託者兼受益者がそれを使ったり、株の配当金や、投資信託を換金したお金や、賃貸物件の家賃収入を受け取る契約になります。
最近では、委託者兼受益者の家族が受託者に選任されるケースが増えたので、民事信託を家族信託を呼ぶこともあります。
この記事では、委託者兼受益者の家族が受託者に選任されるケースを家族信託と呼んで、成年後見と任意後見との違いを見ていきます。
家族信託のメリット
成年後見制度や任意後見契約と比べて、柔軟性に優れます。
成年後見制度のように、家庭裁判所から後見人等が選任されたり、家庭裁判所からの監督を受けることがなく、
任意後見契約のように、家庭裁判所による後見監督人の選任が必須ということもありません。
判断能力が衰える前から始められます。
受益者の財産と信託財産を分けるので、受益者が差押など受けても、信託財産を守れます。
受託者兼受益者が死亡した際、信託財産を家族である受託者に引き継がせることができます。この場合、相続税が発生します。
信託スキームの設計によっては、実質贈与だけど、贈与税を回避するという使い方ができます。
家族信託のデメリット
コインの裏表のように、家庭裁判所に監督されないというメリットの半面、監督機能が弱く、受託者から横領されるリスクをはらみます。
受託者からの横領を防ぐために、信託監督人をつけ、委託者兼受益者の家族が信託財産の照会ができる仕組みを用意する等の方法が必要になります。
家族信託の使い方例 (積み立てた投資信託を年金代わりにする)
親(委託者兼受益者)が持っている財産を、自分が管理する財産と受託者に管理させる財産(信託財産)に分けます。
投資信託の運用を子ども(受託者)に任せて、定期的に換金して得た金を年金代わりに受け取り、本人が死んだら家族に分けるという使い方ができます。
受託者の判断能力が衰えても、財産管理を受託者に任せておけるので安心です。
死んだ後のことも、あらかじめ決めておけます。
判断能力の低下という事態に備えつつ、投資信託の運用を継続できるので、投信積立と家族信託は相性がいいと思われます。
家族信託の使い方例 (投資信託を親から子へ、子から孫へ)
上記の使い方例の応用で、親である委託者兼受益者の死後、委託者をなくして、子を受託者兼受益者にし、子が亡くなったら、孫に承継させることができます。
このように、次の受益者を決めておく信託契約を受益者連続信託といいます。
受益者連続信託のメリットとしては、信託財産の承継者を2世代以上先まで決めておけることと、固有の財産と信託財産を分けることで、死後の固有の財産の使い方を遺言書や遺産分割協議で決めて、それとは別に信託財産の使い方を決められることが挙げられます。
なお、受益者連続信託をすると、信託契約上の受益者だけ、たくさん財産を受け取ることになり、受益者にならなかった他の相続人の遺留分を侵害して、他の相続人が受益者に遺留分減額請求をする事態になる可能性があります。そういう場合に備えて、法定相続人になると推定される家族の間で話合いをしておく必要があります。
家族信託で投資信託運用する際の注意点
信託専用口座は使わない
受託者の信託口座を信託専用口座として流用する方法もありますが、受託者の財産と信託財産が混ざる危険性があるのでお勧めできません。
証券会社に信託口口座を開く
受託者の財産と信託財産を分けるために、信託口口座(しんたくぐちこうざ)を開設する必要があります。証券口座の信託口口座を開けるのは、限られています。有名なところでは、楽天証券、大和証券、野村証券です。
公正証書で信託契約書をつくる
証券会社で信託口口座をつくるには、公正証書で作成した信託契約書を提出する必要があります。
持っている投資信託を扱っている証券会社を選ぶ
信託口口座を開いた証券会社が、持っている投資信託を扱っていない場合、信託口口座に投資信託を移管できません。
本人が持っている投資信託を扱っている証券会社で信託口口座を開設することになりますが、現状では、扱っている投資信託が豊富や楽天証券を選ぶことになるでしょう。
専門家に相談する
家族信託の説明、スキーム設計、契約書作成は司法書士が、
家族信託を使った節税対策は税理士が得意です。
結局、出口戦略として何を選べばいいのか
自分の判断能力が衰える事態に関心がない場合
現状のままでいいです。いざ、判断能力が衰えたら、利害関係人の申し立てで家庭裁判所が成年後見人を選任してくれます。成年後見人は、堅実な財産管理と権利擁護を遂行してくれるでしょう。
成年後見でも、後見人を家族に誰かに指定して申請することができます。
しかし、希望通り、家族が後見人として選任される確率は8割だと言われています。
任意整理は、確実に後見人として家族や知り合いを選任したい場合や、判断力の低下が見られないときから始めたい時に選択肢になり得ます。
自分の判断能力が衰える事態に関心がある場合
自分の判断能力が衰えて自分で財産の管理ができなくなった場合、他人に任せて財産をどう扱ってほしいか、死んだ後、どうして欲しいか考えてみましょう。それを実現する手段として、柔軟に計画を立てられる家族信託がお勧めです。